2021/02/26

長期株式投資のベストプラクティスが書かれている本、ジェレミー・シーゲル教授の『株式投資の未来』、そして『株式投資』から学んだことを数回に分けて整理し、自分の血肉に変えていきたいと思います。
第4弾の今回は長期投資における株式と債権のリターン・リスクについてです。
初心者向けの資産運用に関する本を読むと、たいての本には「株式投資はリスクが高いので、逆相関の債権も保有することでポートフォリオのリスクを抑えましょう」的なことが書かれています。
しかし、シーゲル教授は過去半世紀以上の膨大なデータから、実は債権の方が株式よりリスクが高いことを証明しました。
※シーゲル本まとめ記事です(随時更新中)↓
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株式と債権の実質トータルリターン
早速ですが、衝撃を受けたグラフを掲載させていただきます。
(ジェレミー・シーゲル著:株式投資 第4版より)
上記のグラフは名目ベースではなく、インフレを加味した実質ベースでの1802年~2006年のトータルリターンを指数で示したグラフです。株式は可能な限り多くの業種の株式に、時価総額の割合に応じて投資した場合を想定しています(S&P500に近い)。
驚くことに、インフレ調整後の株式の実質トータルリターンは常に年率6.6~7.0%を維持しているのです!
仮にインフレ率が2%だったと仮定すると、名目トータルリターンは約9%近くになります。この200年間、政治や経済環境の大変動があったのにも関わらず、右肩上がりです。すごすぎる。
一方債権の利回りを見てみると、第二次世界大戦以降は伸び悩んでいることが分かります。
これは株式と違って、債権の利回りは政治や経済環境の動向に大きく影響を受けるためです。
vsインフレ
なぜ、債権は株式と違って、政治や経済の動向に大きく左右されるのでしょうか。
それは債権利回りはインフレの影響を受けるためです。
インフレはとても不確実性が高く、政治や経済の動向にモロに影響を受けるのです。
実際に、第二次世界大戦以降のインフレは複数の要因が絡まって発生したものでした。
金本位制から管理通貨制への移行や、大恐慌という経済危機を受けた投資家のパニック株式売り債権買い、1940年代のFRBの債券相場買い支え、個人投資家の安心を求めるあまりの高い価格での債権買い等々。
特に金本位制から管理通貨制への移行は重要で、この移行に伴いインフレ率はその国の中央銀行の手腕に依存する形となりました。つまり、国や中央銀行の思惑次第で債権利回りはどうとても変わってしまうのです。
※日本の中央銀行はインフレ率をコントロールできていませんが。。
債権から得られる利息収入は、インフレ率を考慮せずに債券購入時に決められた額を決められた期間中に受け取れられるという特性上、その時代の国の政治や経済動向に左右されるインフレ率の影響を受けます。
つまり、債権投資は将来どうなるか読めないインフレ率に賭けるギャンブルのようなものになってしまっているのです。
一方、債権と違って株式はなぜこの200年間に安定した利回りをたたき出してきたのでしょうか。
驚くことに、理由は明らかにされていないようです! 飛行機が飛ぶ原理が解明されていないのと同様に、複雑な要因が絡み合って、結果として安定したトータルリターンを生み出しているのです。
ただ、株式のリターンに影響を与える要因は解明されています。株式を発行する会社の資本の質と量、生産性、株式自体のリスクとリターンに左右されます。
インフレと違って、株価の動きはその資本次第、株式会社次第のところが強いため、短期的に見ると政治や経済の動向に影響を受けますが、株式市場の根幹が揺るがない限り長期的に見て株価は回復する、ということになります。
また、株式は実物資産(価値が労働や資本)であるため、インフレ率に合わせて連動するということも過去データより示されています。
しかし、安定したトータルリターンを生み出す理由が解明されていないことがどうしても腑に落ちません。シーゲル教授はこの点についても指摘しており、現代がたまたま資本主義の黄金期なだけで、自由経済主義の広がりも一段落すれば資本主義が衰えるかもしれず、その時に株式のリターンがどうなるかは不明なのです。
良いところばかりを鵜呑みにするのではなく、この点は留意しておきたいところです。
平均回帰の法則
さて、話を株式の長期投資の安定性に戻します。
株式はここ200年で安定したリターンをたたき出してきましたが、驚くべきは株式への長期投資は平均回帰の法則が働くのです。
つまり、下げ過ぎたら上昇し、上昇しすぎたら下落するというように、行き過ぎは常に調整され続けます。短期的な変動も長期的には見ると相殺されるのです。
もう一度、実質トータルリターンのグラフを見てみますと、株式の折れ線には近似線が引かれており、リターンが近似線を行ったり来たりしているのが見て取れます。
株式における平均回帰の法則は、2つの重要な示唆を与えました。
(ジェレミー・シーゲル著:株式投資 第4版より)
示唆①:保有期間とリスク
(過去の)データにより、株式投資の利回りが平均回帰の法則に従うという事実が明らかになってからは、保有期間はポートフォリオ理論の重要な要素となった。
すごいチャートをまた貼らせて頂きます。保有期間別の株式・短期債・長期債の複利ベースの利回りです。
5年未満の投資期間の場合、株式は債権よりリスクが高いですが、株式を17年以上保有すると、実質ベースで損失がないのです!!
株式を黙って17年以上保有して、その間に愚直に配当再投資を繰り返すだけでよいのです。また、10年以上投資するだけで、債権よりリスクが小さくなるところも注目です。というか、債権は保有期間をいくら長めにとってもマイナス利回りのリスクがつきまといます。
(ジェレミー・シーゲル著:株式投資 第4版より)
示唆②:高値圏で買ってもよい
驚いてばっかで恐縮ですが、なんと長期投資の場合、株価が高値圏にあるときでも買ってよいようです。
10年投資すれば、債権を上回ります。10年以上株式投資をし続けるならば、トレンドに合わせて売買できないならば、ただバイ&ホールドで配当再投資し続けるだけでよいようです。
まとめ
シーゲル教授は下記のことを教えてくれました。
- 過去200年、長期の株式投資は約7%の安定したリターンを生み出してきた
- 債権投資は将来のインフレ率に賭ける一種のギャンブルである
- 長期の株式投資の利回りには平均回帰の法則が働く
- 17年以上投資すれば株式投資のリスクはゼロになる
- 高値圏で投資してもよい債権よりリターンを上回る
あくまで過去200年のデータから導き出された結果であり、この結果がこの先も通じるかは分かりませんが、他に信じるべきデータがないのなら、信じても良いのかもしれません。