2022/01/17

2021年2月28日、米長期金利が急騰し、株式市場はクラッシュ安しました。
株と金利の関係、なんとなく分かったつもりでいましたが全く分かったいなかったようです。
金利を見ないで株式投資するのは地図を持たずに航海に出るようなものだ
って誰かが言ってような気もしますので、今後の私の株式投資生活のために株式市場の地図を入手したいと思い、勉強して学んだことを自分の言葉で整理することにしました。
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金利と長短金利差
金利とは簡単に言えば銀行等とお金を貸し借りするときの利息です。
この利息の利率によって市場に流通するお金の量をコントロールされ、経済活動に影響を及ぼします。お金は血液、銀行は心臓と例えられる所以です。
そして金利には短期金利と長期金利の2つがあります。
- 短期金利とは貸し借りの期間が1年以内のときに適用される金利のことで、政策金利や誘導目標金利とも呼ばれており、中央銀行の金融政策で決定されます。
- 長期金利は1年以上貸し借りする際に適用される金利のことで、短期金利や将来のインフレ予想を加味しながら市場の需給で決定されます。
- ただし、実際のところはイールドカーブコントロールやツイストオペというような手段を使って中央銀行が長期金利をコントロールケースが出てきています
一般的には短期金利<長期金利となっており、銀行なんかは短期金利で預金者からお金を集め、そのお金を長期金利で企業等に貸しての利鞘を稼ぐことで収益をあげています。
ただし、長短金利差は中央銀行の金融政策によってはマイナスに転じることもあり、それが銀行の業績悪化、経済活動の低迷に繋がる要因にもなります。
つまり、長短金利差によって景気の状況が変わってくるのです。
金利と景気の関係
長短金利差によって景気の状況を大まかに把握することができ、景気を大きく4つのフェーズに分けることができます。
とってもわかりやすい図ですよね。SBI Bond Investment ManagementさんのHPより転用させて頂きました。
上記チャートで表現されている4つのフェーズについて簡単に解説したいと思います。
- ①回復フェーズ
- 不況から脱却するために政策金利(短期金利)を低くされており、お金が市場にたくさん出回って経済活動が活性化するフェーズ。
- 景気が回復してくると長期金利が上昇し、長短金利差は拡大。
- ②過熱フェーズ
- 市場にお金が潤沢に出回り、景気が良くなりすぎて過熱気味になってくるフェーズ。
- 中央銀行は過熱感を抑えるために政策金利を引き上げて市場に出回るお金の量を絞る。そのため、長短金利差は縮小。ただし、この間も長期金利は緩やかに上昇する。
- ③減速フェーズ
- 短期金利が上昇してきたため市場に出回るお金の量が減り、景気が悪化し始めるフェーズ。
- 景気の見通しが悪くなってきため長期金利は低下。長短金利差はマイナスへ。
- ④後退フェーズ
- 不況まっしぐらのフェーズ。中央銀行は政策金利を下げて、市場に出回るお金の量を増やし、経済活性化を企てる。
- 将来の景気見通し改善の期待から長期金利は底打ちに向けて緩やかに下落し、長短金利差は拡大へ。
中央銀行が政策金利を操作することで、景気を上向かせたり(金融緩和政策)、過熱を抑えたり(金融引き締め政策)することができるのですから、なぜ株式投資家が中央銀行、特にアメリカの中央銀行であるFRBの動向を注視するかが分かります。
「株価は景気の先行指標」なんて言われたりもしますが、そのためか株式投資家は景気をコントローるする金融政策を見て将来の先行きを予想して株式を売買しています。
金利と株価の関係
一般的に長期金利が上昇すると株価は下落し、長期金利が下落すると株価は上昇すると言われています。
それは、下記のサイクルが働くからだと言われています。
- 金利下落 → お金を借りやすくなる → ビジネス拡大 → 収益向上 → 株高
- 金利上昇 → お金を借りにくくなる → ビジネス停滞 → 収益悪化 → 株安
ですが、2つの数式を抑えておくと、もう少し深く金利と株価の関係を理解することができるかもしれません。
株式益回りと債権利回り
株式益回りとは、PERの逆数で計算することができ、この指標でその年その企業が株価の何%のリターンを生み出すかをざっと把握することができ、その株式のリターンの利回りと債権利回り(10年債利回りの場合=長期金利)との比較をすることができるようになります。
株式益回り(1株あたりのリターン) = 1 ÷ PER(株価収益率) vs 債権利回り
例えば、PER50倍の株があったとすると、この企業の株式益回りは1÷50×100=2.0%となります。
この2%という株式益利回りを債権利回りと比較することで、株式と債券のどっちに資産を預けた方がお金が増えるかという判断をすることができるようになります。
金利が上昇すると高PERで益回りの低い株よりは、債権にお金を預けた方が確実にリターンを得れるということで、割高な高PER株は売られる傾向になります。
これが高PERであるグロース株が金利上昇時に売られる理由の1つです。
割引率
割引率とは将来の価値を現在の価値に置き換える率のことで、将来の価値は現在の価値より劣るのだからその分割り引いて考えましょうね、という概念です。
金利を利用することでざっくり計算でき、一般的に金利が高いほどリスクが高くなるので割引率は高くなり、現在価値はその分低くなります。
例えば、金利が1%の場合、今の100万円は1年後101万円と同じ価値になる、といった具合です。
この場合の割引率は、
現在価値 = 将来価値 ÷ (1+割引率)
なので、
割引率 = 将来価値÷現在価値 - 1
で求めることができ、1年間の金利が1%の場合の割引率は、101/100-1=0.01。金利が上昇して2%になった場合は、割引率が102/100-1=0.02と、金利が上がったので割引率も上がってしまいます。
この割引率(ディスカウントレート)を使って企業価値を調べる手法として、ディスカウントキャッシュフロー法という評価方法があります。
企業価値(≒株価) = 現在のキャッシュフロー ÷ 割引率
※キャッシュフローではなく配当等で計算する場合もあるようです。
この式の分子と分母それぞれに対して金利が上昇するとどういう動きをするのか見てみますと、分子のキャッシュフローは金利が上がると資金調達時のコストが上がるため事業拡大がしにくくなるため減少し、割引率は金利上昇に合わせて上昇します。
すなわち、金利が上昇すれば分子と分母の両方が企業価値にとって悪い方向に動き、企業価値は下がると数式上は捉えることが出来ます。
株価のバリュエーションを割引率で把握している場合は、金利上昇時に再計算されることで、評価減の分だけ売られる理由ができてしまう、ということになります。
金利と景気と株価の関係
「金利と株価の関係」という章では金利上昇=株安という杓子定規的な説明をしてしまっていますが、このような教科書的な動きをするのは金利がフォーカスされているとき、すなわち大きく変動したときです。
緩やかに上昇している場合はその限りではありません。なぜなら、長期金利の上昇は景気が良くなっていくことのサインでもあるためです。
実際に米10年債利回りとS&P500株価指数を月足チャートで並べて眺めてみるとよく分かります。
長期金利が上昇している局面においては、株価は上昇しやすい傾向にあることが見て取れます。
<S&P500 vs 米10年債利回り 月足チャート 1995年~2005年>
ただし、株価と長期金利の相関性が強くない期間も見受けられます。
そこで、もう少し正確に金利と株価の関係を解釈するために、「金利と景気の関係」の章で整理した知識である金利の長短金利差を使って景気を4つのフェーズに分け、そのフェーズごとに株価がどのような推移を見せるかを確認してみたいと思います。
そこで、紹介したいのがこの図です。
再びSBI Bond Investment ManagementさんのHPより大変分かりやすい図を転用させて頂きます。
金利と景気だけでなく、インフレ/デフレ、そして株式の関係もまとまっています。
実際にS&P500と長期金利、政策金利、長短金利差を1つのチャートにして眺めてみると、上記図のように推移していることが見て取れます。
<S&P500 vs 金利(米10年債利回り、政策金利、長短金利差) 月足チャート 1995年~2005年>
この記事の冒頭にこんなことを書いていましたが、
金利を見ないで株式投資するのは地図を持たずに航海に出るようなものだ
このチャートを見た後は、本当にその通りだなと痛感しています。
長短金利差がマイナスになって景気が③減速フェーズに入った時に株を手放しておけば、ITバブル崩壊の大暴落は防げたということになります(もちろん結果論かもしれませんが)。
地図を手に入れたことで見えたこと
株式投資の地図を手に入れたら、大暴落が来る前兆をなんとなく捉えることができました。これは大きな1歩です。金利を見ることの重要性を痛感します。
具体的にチャートを見てみると、直近3つの大暴落はどれも長短金利差がマイナスになった後に来ています(コロナショックは本当に過去2回の大暴落と同列なのか?という疑問は払しょくできてはいませんが・・)。
長短金利差はマイナスになった直後に急騰していますが、これはおそらく株価急落を見て中央銀行が政策金利の利下げに走ったためでしょうか。
<S&P500 vs 長短金利差 月足チャート 1995年~2021年2月>
それにしても、長短金利差がマイナスになった直後にコロナショックが来て、その後過去2回の大暴落と違ってズルズル下がらなかったことを踏まえると、中央銀行や政府が過去の対応を教訓に素早く行動できたことが伺えますよね。
ただ、よくよくチャートを眺めて考えてみると、素早い対応が功を奏した訳ではないかもしれません。
というのも過去2回の暴落はどちらも長短金利差が急上昇して3%に到達したあたりでようやく落ち着いています。
しかし、コロナショックでは利下げ幅が過去に比べて小さかったためにすぐに0水準まで到達してしまったのと、長期金利も長期のダウントレンドの上値抵抗線に頭を叩かれる形で過去に比べて低い水準からの下落だったため、ほぼ2つの金利はほぼ同じスピードで0水準に到達しました。
金利の上げ下げできる幅が狭まってきていることから景気循環のスピードが上がり、今まで10年に1回ぐらいの頻度で来ていた大暴落が5年周期で来たりする、なんていう状況になってきているのかもしれません。
過去のパターンから考えると次の暴落は利上げしきったタイミングになりますが、現在は長期金利の長期トレンドが上値切り下げのダウントレンドを形成していることから、長期金利は上昇しても上値抵抗線がある2%前後までになる可能性があります。
なので、利上げを1%程度行うだけで、そして少しでも長期金利が下落に転じたら長短金利差はマイナスになってしまいます。
このように考えてみると、もしかしたら次の暴落は1,2年以内にやってくるのかもしれません。
それとも、長期金利がこの長期のダウントレンドを上にブレイクするのか(具体的には2%超え)。ブレイクできないのであれば、債券は今後ずっと冬の時代を過ごしそうですね。それはつまり株の時代、特にグロース株の時代の到来を意味します。。
まあ、金利と株価の関係は奥が深すぎるので、今後もチャートを眺めながら規則性という名の株式投資の地図をブラッシュアップしていきたいと思います。
そして、暴落は利上げしないと来ないので、当分はバブルに浮かれて踊っていてもいいのかなと思っています。